社長の旦那と恋知らずの妻(わたし)
飯田コーポレーションから出るにしてもまず、このぐしゃぐしゃな顔どうにかしないといけない。
この顔で外に出たら今感じるビシビシの視線よりも、もっとビッシビッシな視線を浴びる事になってしまう。
「あれ、優子ちゃん?」
トイレを探していた私の名前を呼んで引き止めてきたのは――
「た、くとさん」
卓土さんだった。
あ、そっか、卓土さんもここで働いてるんだった。
「どうしたの?」
目をギョッとさせながら卓土さんは私の元へと近付いてきて、今更遅いけど私はこの顔を見られないように掌で隠した。
「何かあった?」
「……」
「飯田にはお使いで来たの?」
コクッと頷く。