社長の旦那と恋知らずの妻(わたし)
「お父さんのお使い?」
「……」
「じゃあ、お母さんのお使い?」
私は頭も横にも縦にも振らず俯き立ったまま。
私の家族の誰かがここで働いてる事を知っているから卓土さんがそう聞いてきて当たり前で。
まさか私が人妻で、その相手が飯田コーポレーションの社長だなんて思うはずもない。
拓斗さんが結婚している事はごく一部の人しか知らないみたいだしね。
「優子ちゃん」
卓土さんは困った様に名前を呼んだ後、私の手を軽く握りしめた。
なに…?
ビックリした私は顔を上げると笑顔の卓土さんと目がパチッと合った。
「とりあえずあっち行こう。此処じゃ色々と話せないから」
「……」
「お茶でも飲んで落ち着こう、ね?」