社長の旦那と恋知らずの妻(わたし)
お義母さんが他に何か私に用があったかもしれないのに、シチューの話の他に何かあったかもしれないのに。
拓斗さんと話し終わった後にあったかもしれないのに。
―――バタンッ―
そんな事に気付いたのはしっかり部屋に入り、ぴっちり扉を閉めてしまった後。
「―…失格だ」
私は嫁失格。
お姑さんであるお義母さんによき妻を演じなきゃいけないのに、そそくさと逃げたりして。
だからと言って戻るのは嫌だなあ。
拓斗さんが居るリビングに戻るのは今の私には出来ない。
「どうしよう」
電気もつけずに扉を見てそう呟く。
考える暇があったら行動!って言葉はのろまな私は不釣り合い。