社長の旦那と恋知らずの妻(わたし)
「俺は優子を愛してる。好きではないと言った理由はこれだ」
私の耳に届いてきたのは好きよりももっと素敵な言葉。
好きだと言われた時は言葉は出たものの思考がぴたりと止まった。
そして、今は…
「約束は約束だ。さっきの事を許してくれるのか?」
何も言葉が上がってこない。
ただ、ヒックヒックも言わずつーッと両目から涙が出てきてはらはらと泣きぶるぶると手が震えるだけ。
「明日も早い事だ」
拓斗さんは私の頭から手をはなすと――
「優子、おやすみ」
と、私に背を向けた。
目の前にあらわれた拓斗さんの大きくしっかりとした背中に、ドキドキもするけどそれ以上に無性に触りたいと思えた。