社長の旦那と恋知らずの妻(わたし)
「か、会長!」
ロビーのほぼ中央という所まで来ると50代くらいの貫禄があるおじさんが焦った様に走ってきた。
「あぁ、丁度いい所に。駐車場に停めておいてくれないか」
その人に車のキーを渡すお義父さん。
誰かに車を停めてもらうから正面に停めたんだ。
そうだったんだ…、と思いながらお義父さんを見ていると歩き出してお義母さんと一緒に後を追う。
「おはようございます」
あちらこちらからお義父さんに挨拶が聞こえ、視線を向ければ殆どの人がピシッと頭を下げている。
「あのね、主人は久しぶりなのよ」
「そうなんですか?」
「拓斗に社長を譲った時点で主人の中で完全引退になってるわ。会長何てただの肩書きだけなのよ」