ゴブリン! ゴブリン!
「プー姫様っ!」
物凄い形相で飛び込んでくるペーコちゃん(怖いよ)。
「ひいっ! 怖いよ、その顔! ペーコ!」
「顔が怖いのは元からです!(ゴブリンですからね)とにかくすぐに逃げて……きゃーっ!」
ペーコちゃんの形相に驚いているプー姫を引っ張り、逃げ出そうとしたペーコちゃんの前に、人間の男が数人、宮殿(洞窟)の廊下に立ちはだかりました。
「にんげんにんげん、にんにんにんげん(ゴブリンに人間の共通語は分かりませんので、敢えてこう表記させて頂きます)」
怖い顔をした(ゴブリンから見たら、人間の方が野蛮で怖いです)、大きな人間の男二人が、ペーコちゃんとプー姫に向かって、痛そうな剣を突きつけました。
そしてリーダー格らしい、藍色のローブを身に着けた若い痩せこけた男が、たどたどしいゴブリン語で、二人にこう言いました。
「そこの、スケスケパジャマを、着ているゴブが、例のお姫様ゴブだべ(方言が入っているのは、多分習ったゴブリン語が方言だった為でしょう)」
そのローブを着た若者の手には、彼が精霊術師である事を示している、歪な形の杖が握られています。
「青いリン族国王リン三世陛下息女、プー・ド・トンガ姫様です! 無礼者! 下がりなさい!」
痛そうな剣を突きつけられていますが、ペーコちゃんは引きません。
「ふむふむ、良く分からないですが、間違いなさそうだべ。取り敢えず連れて行くべ」
ずいっと剣を突き立てられては、ペーコちゃんも従わない訳にはいきません。
「ペーコ……」
ペーコちゃんの背中に庇われているプー姫は、怯えながらも背中越しにそのローブを着ている若い男を見ました。
そして、ぴん、ときました。
「あっ、一年前人間の村にイタズラしに行った時に、しつこく追い掛けて来た奴だわさ!」
藍色のローブも、歪な形の杖も、そして印象的なヘイゼルの瞳も、痩せこけた頬も、プー姫の記憶に残っています。
「くっくっくっ、このトンガ草原は、我々人間が支配するべ」
ローブの青年がそう言って冷たく嘲笑うと、プー姫とペーコちゃんの背筋に、冷たい戦慄が走りました。
そう――
トンガ草原に、激しい戦乱が始まろうとしていたのです。