ゴブリン! ゴブリン!


 陛下とリン王は、お互い苦笑しました。リン王を騙して、金縁の本を隠していたプー姫もそうですし、相変わらず下着ドロしているシックス君達もそうですし。
 苦笑するしかありません。


「……ううむ、経緯は分かった。で、その金縁の本には何が書かれていたのだ?」
 陛下がそう尋ねると、老ゴブの顔が信じられないほど鋭くなります。
「これを話しても、両陛下が戦意を失わない事を祈ります」


 その言葉には、暗に二人の国王が「それだけ覚悟しなければならない」事実を語るのだという事を示しています。
「あの金縁の本はミミズ語で記してありました」
「ミミズ語?」
「何故そのような意味のない言語を使ったのだ?」
 二人の国王が老ゴブに問います。老ゴブはこう応えました。


「チークン殿の話では、ミミズ語と精霊言語は良く似ているとか。精霊言語を覚えるついでに、ミミズ語を覚える精霊術師は少なくないそうです。そして秘密のことを書くのならば、これ以上ない防御手段の一つだろう、とも」


 精霊言語は、無論精霊を操る為の言語です。その言語は言葉でありながら、言葉ではありません。ミミズ語はミミズ達の意思疎通の為の言語です。話す事のできないミミズ達はミミズ語という特殊な「言葉ではない言葉」で意思を疎通するのです。ですから、精霊言語とミミズ語は似ていると言われています。


「問題はその内容です。失礼ながら人間達の世界が現在、どのようになっているのかを、両陛下はご存知でしょうか?」
 当然知っています。今現在、人間達は「帝国」と呼ばれている国によって、統一されています。
 ただ圧政が厳しいらしく、反乱が続発しているのです。トンガ平原が帝国によって攻められない理由の一つとして、その反乱鎮圧に帝国が追われているから、という一面があります。


「……トンガ平原、青いリン族に隣接していたあの村が、何故急激に人口が増えていたのか? これは簡単な謎解きだったのです。傭兵を雇っていたのです。あの本は人間達の反乱の、一斉蜂起の血判状だったのです」


「――!」
 二人の国王の顔色が変わりました。

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