ゴブリン! ゴブリン!

「ペーコだって、ナンノカンノ言いながら、しっかり金目の物、盗んでいたじゃん」
 プー姫が可愛く笑いながら言います。
 今は夕刻、ゴブリンだってお腹は空きますから、プー姫のお部屋(と言っても、洞窟の一室です)でお食事タイム。


 名将リン王が、今年成人したばかりのシックス君に大敗したという話は、既にリン王の統治するこの巨大な洞窟に住む者達ならば、みんな知っています。


 ただ、ただ、シックス君に感心するばかり。


 ここ数年の間このお祭り戦争ごっこで、リン王の前に、ゴブ五世陛下は大敗し続けていましたから、今年のリン王の大敗は、青いリン族のゴブ達は誰も考えていませんでした。


 王族は以前、人間との接触もありましたから、食事もちゃんと(木製ですが)食器類を使います。フォークとナイフ、スプーンは人間との交易で得たもの。
 今日の晩御飯は、ウサギ肉のソテー、豆類のスープ、サラダ、食後のデザートに木の実といった具合。


(お父様が負けるなんて、考えた事なかっただわさ~)
 カチャカチャとナイフとフォークを動かしつつ、ぼんやりと、プー姫は考えました。
 そして勇敢に、尚且つ強くなっているであろう、シックス君の事を考えて、ちょっと赤面。


「プー姫様、まんざらでもないんでしょう?」
 ペーコちゃんが、プー姫をからかいました。これも「お姫様付き侍女兼、親友」の特権でしょうね。
 赤面して照れているゴブリンの女の子の顔を想像できないのが、我々人間の限界です。美少女を連想してしまってもいいでしょうが、何しろゴブリンはゴブリン。


「昔から言っていましたもんね、「シックスってカッコいい」って。私も覚えていますよ、初めてお会いになった時の事……」
 シックス君が二歳(ちなみにゴブリンは五歳で成人です)、プー姫が一歳の頃です。


「もう!ペーコ意地悪だわさ!」
 プー姫は赤面しながら、明後日の方向に視線を向けているペーコちゃんの後頭部に、ハイブロウな鉄拳制裁ツッコミを敢行しました。


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