閃火高遠乱舞
 飛雲はくるりと青年に向き直ったのだ。
「はじめまして、アダリー殿下」
 一瞬、誰だったか思い出せなかった。
 殿下。
つまり青年は王子様だ。
ここはどこか。アメリカだ。
 全てが繋がった。
 アダリー・ラサーファ。
アメリカ皇王ロンダリー・ラサーファの嫡子であり、第一皇位継承者。
その炯眼は軍帝に負けず劣らないが、身体が弱いのが唯一の難点とされている。
 それが、この青年なのだ。
宝王子は書類上の人柄しか知らないため、すぐには思い出せずにいた。
 アダリーは食事を進めていた手を止める。
「コイツがここに来たとき逃げられなかった時点で俺の負けだ」
 隠れるつもりはない、とアダリーは続けた。
 アダリーはすぐさま宝王子が異国人であり、軍人であると見抜いていた。
しかし不自然な行動を避けたため、このような状態に陥ることとなっている。
どちらにせよ、逃亡は難しかったということだ。
「…まさかアメリカの王子様がこんなところにいるなんてね」
「ここは俺の国だ、いてもおかしくはない。変なのはお前たちだ」
「…おっしゃる通りで」
 宝王子は、口上戦では勝てぬと見て早々に引く。
どことなく帝を彷彿とさせる会話運びをする。
一部将である宝王子の手に負えるはずがない。
「…で、何が目的だ?俺にわざわざ近づいたんだ、何か意図があるんだろう?」
アダリーは悟り顔で二人を見た。



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