ブラッククロス
「貴方から入って来たのだから…。」






氷の美しい蝶…。






「私は…。貴方のことを知りたい。ネージュ…。」





それは…。






「私は…。お前のことは餌に過ぎない。」






「それでもいいわ…。ただ知りたいだけ。」






雪の粉を降らす氷の蝶…。





一輪の薔薇に吸い寄せられた…。
甘い甘い蜜の香り…。






蒼い炎が邪魔をする。
氷が溶けて水と化した。





紋章が濃くなる。






「彼奴が来るか…。まあいい。今度はその心の音を止めてやる。」






城の中に戻る。
ここで揉めるのはごめんだ。
半壊どころか全て消えてしまうだろう。





バンパイア諸共か何を言うかわからない。






小さな氷の蝶を飛ばす。





「あの餌を見張れ…。」





クリスタルのような蝶は透明になって消えた。






こんなにも欲しているのか。






ただの人間…。






凍てつかせたい。
その心の音を止めて…。僕のものにしたい。






廊下を行き交う蝙蝠が氷の破片となって落ちていく。






闇の世界の月は見えなかった。






普段は隠れて見えない指輪の場所に口づけた。
力のあるものにしか見えない指輪。





大きな白く透明なクリスタルの嵌め込まれている。中には雪の華のような輝きを秘めていた。





母の形見。
ビックジュエルの一つ…。





淡雪のように…。消えた母…。






あの華…。あれが欲しい。
雪の結晶は熱に溶けていく。
華は熱を帯びていた。






捕らわれたのはどちらか…。





雪明かりを行くように。
氷の貴公子は欲した。
熱を帯びた薔薇を求めて…。






引き寄せられた。






氷の玉座を目指す孤独な王は…。






月のない夜の道を行く。





華を凍てつかせてやる。





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