ブラッククロス
「ローズ…。」






目を開ければ漆黒のバンパイア。
「ノア。」






抱きしめるバンパイア。
いつもは不敵な顔が不安な表情をしている。





「どうしたの?何かあった?」





強く抱きしめられ、首筋ににキスが落ちる。
赤い華が咲いていく。





「何処にも行くな…。」





「何処にも行かないわ…。」





貴方は…。一人で走っているの?






ねぇ、ノア…。






こんなに近いのに…。
こんなに近いのに…。






近くて…。遠い…。






いつの間にか意識が何処に行っていた。
誤魔化すように…。
キスを落とす…。
もっと、もっと…。





愛しいバンパイアはそれに答えるように…。
深く…。深く…。





愛されていることが嬉しいのに…。
何処か淋しいのは何故…。




この不安を消すぐらい。もっと…。もっと…。






不意に離れる暖かさに…。
「出かける…。何か有ればグラスに頼め。」






手を伸ばしたのに届かない。
瞬きをすればそこに姿はなくて…。
シーツはまだ暖かい。






「何かが…。あれはノア?」





何かが…。
何かを感じていた。
何かざわざわするような感覚に自分自身を抱きしめる。





それを証明することは出来ない。
ただそこにあるのは恐怖…。あれは…。あれは…狂気を纏うもの。





彼が恐るのは何か…。






何かが足りない…。






横にある大きな鏡が彼女を見ていた。






何かが走っていた。
森ノ宮に何かが…。





木々がないように走り抜ける。音が響いた。走り抜ける。





魔物は縮み上がり逃げていく。





逃げ遅れたものは…。






悲鳴を上げる暇もなく、命を終えた。





何かが足りない…。
何かが足りない…。






燃え上がる瞳が妖しく光。獲物を探しては火種にしていく。
走る漆黒の獣は…。誰にも止めることは出来ない。





「…。くれ…。くれ。」





森ノ宮は狩場と化していた。





宮の主が動き出す…。






炎は止まることを知らない。
ただ満たす為に燃え盛る。





< 123 / 133 >

この作品をシェア

pagetop