ブラッククロス
しかたなくグラスに促され、真っ赤なドレスを着た。





大輪のようなドレスに慣れなくてぎこちない動き。




息苦しさにまたバルコニーに出た。





湖の向こう側に大きな城。鉄壁の闇の城。





眺めていたら下から動物の鳴き声が聞こえた。




目が合ったそれは羽ばたいてバルコニーに…。なんて恐い。





思わず後退り…。





「大丈夫。ああ見えて大人しいんです。」




グラスに肩を支えられ近づいて鼻を撫でた。





「本当に、でもこの…。なんて。」





骨と皮しかない馬のような生き物は初めて見て…。羽根がついている。





すりすりと鼻をすりよせるが皮に骨だからなんとも堅いような…。





「竜じゃないし…。なんて不思議な生き物かしら…。」





「マリー様を気に入ったようです…。乗りますか?」





顔がひきつってしまった。





目があるかもわからないこの生き物は尻尾をふり…。期待しているような仕草をする。





「落ちないかな?」





不安を隠せなかったが。軽々とグラスがお姫様抱っこをして。





バサリ!





次の瞬間にはバルコニーから落下!





悲鳴もあげずにただ息を飲んだ。





音もなく水平に湖の上を飛んでいた。





「ありがとう。私…。」





突然笑い声が湖に響いた。





「楽しい!」




グラスが笑う。





「ありがとう。こんなことしたことないわ!」





背中を撫でると羽のある不思議な生き物は更に速度をあげる。





楽しくて爽快だった。





グラスは笑っていた。
笑顔が美しい。





******




湖の上に赤い花が浮かんでいるようだ。





ここに来て恐ろしいことばかりのはずがもう楽しんでいる…。





思わずクスリと笑う。




「大した女だな…。ローズ。」





殺気が城から…。




「ネージュ…。やはり無駄か。」





血は美味。時に残酷な争いも引き起こす。





「愛するものの為なら…。この世の全てを焼きつくし…。全てを炎で染め上げる。全てを灰に…。」





殺気を殺気で押し返す。




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