【完】 SECRET♥LOVE 危険なアイツの危険な誘惑
「失礼します。」
部長室の扉を開けると翡翠の予感は的中していた。
いやそれ以上の光景が翡翠の視界に飛び込んできた。
「お仕事中お呼び立てしてごめんなさいね」
「いえ。」
「お座りになって」
「いえ、仕事が立て込んでおりますのでこのままでご用件をお伺いさせていただきます。」
翡翠は頭を下げ、夫人と同席することを拒んだ。
どうして今さらとも思ったが女の横にちょこんと腰かける可憐で清楚な女性を目にしたときその女性が何者であるかということが翡翠には想像出来ていた。
「なら単刀直入にお伝えいたしますわね。こちら弓月財閥のご令嬢で織江さん。琥珀の婚約者」
「弓月織江と申します。」
翡翠の予感は的中していた。
女は部長から翡翠と琥珀が別れたと報告を受けてはいたが自分の目で確かめると同時に琥珀の婚約者織江を紹介することで翡翠に止めを刺したのだ。
翡翠の目に映った織江は透き通るほどの白い肌にキラキラと輝く大きな瞳で可愛らしくもあり女性らしくもあり、翡翠は自分とは正反対の存在感に圧倒されていた。
「宝城翡翠といいます。」
翡翠は会釈をすると顔を上げる事が出来なくなっていた。
翡翠の視界は目頭に溜まった涙で滲んでいた。
そんな顔を女にも部長にも見せたくはなかった。