【短編】阿呆と馬鹿の関係
そう言いながらも5回目の100円玉が、投入口へと音を立てて入った。
……飽きてきた。
画面に集中している柚木の横顔は、楽しそうで。
飽きたって言えないんだよね。
無駄にキックやパンチで声を出す機械すらウザくなってきたし。
上手いのかして、1回が終わるのも遅い。
「柚木、ちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、うんっ」
画面から目を逸らさず返事した柚木に
『いくらゲームしていいって言ってもヤリ過ぎだよ、バカ』
って心の中で言った。
本当なら。
いつもなら。
こんな事、簡単に言えたのに。
何で今は言えないんだろう。
彼女には阿呆って言わないんだから、彼氏にバカって言っちゃ駄目だよね?
柚木が大切にしてくれてるって意味なんだよね、彼女になったあたしを。