『サヨナラの3分前』【短編集】
4.約束
〜約束〜
女の人の笑い声。
それにつられるように、男の人の話し声も弾む。
ボクも何だか愉快になる。
力一杯、女の人のお腹を蹴飛ばすボク。
お腹に手を当てる女の人。
慌てて、男の人も女の人のお腹を優しく撫でる。
ボクは何だか愉快になる。
ふたりが喜んでいる事を、ボクは知っているから。
女の人の泣き声。
男の人の怒鳴り声。
今日のふたりは、何だか不機嫌。
ボクなんかお構いなしに、ふたりはお互いを傷つけ合う。
どうやら、ボクのせいでケンカをしているみたい…。
ボクがいなくなればいいのかなぁ…。
ボクは自分で自分を傷つける。
「大丈夫」
痛みは、まだ感じないから。
ピーポー、ピーポー。
何だか、外が騒がしい。
「大丈夫だよ」
ボクがいなくなれば、全て解決するんだ。
苦しそうな女の人。
苦しそうな男の人。
苦しくなんかないボク。
お腹に手を当てる女の人。
手に手を重ねる男の人。
「お願い…」
祈るようなふたり。
本当にいいの…?
「頑張って…」
祈るようなふたり。
頑張っていいの…?
生きてもいいの…?
生まれてきてもいいの…?
お腹を触る女の人の手。
お腹を触る男の人の手。
お腹を触るボクの手。
「仕方ないな」
ボクがふたりを幸せにしてあげるよ。
だから、ボクを幸せにしてね。
「パパとママ」