『サヨナラの3分前』【短編集】
4.約束



       〜約束〜



女の人の笑い声。



それにつられるように、男の人の話し声も弾む。



ボクも何だか愉快になる。



力一杯、女の人のお腹を蹴飛ばすボク。



お腹に手を当てる女の人。



慌てて、男の人も女の人のお腹を優しく撫でる。



ボクは何だか愉快になる。



ふたりが喜んでいる事を、ボクは知っているから。





女の人の泣き声。



男の人の怒鳴り声。



今日のふたりは、何だか不機嫌。



ボクなんかお構いなしに、ふたりはお互いを傷つけ合う。



どうやら、ボクのせいでケンカをしているみたい…。



ボクがいなくなればいいのかなぁ…。



ボクは自分で自分を傷つける。



「大丈夫」


痛みは、まだ感じないから。





ピーポー、ピーポー。



何だか、外が騒がしい。



「大丈夫だよ」


ボクがいなくなれば、全て解決するんだ。





苦しそうな女の人。



苦しそうな男の人。



苦しくなんかないボク。





お腹に手を当てる女の人。



手に手を重ねる男の人。





「お願い…」



祈るようなふたり。





本当にいいの…?





「頑張って…」



祈るようなふたり。





頑張っていいの…?



生きてもいいの…?



生まれてきてもいいの…?





お腹を触る女の人の手。



お腹を触る男の人の手。



お腹を触るボクの手。





「仕方ないな」


ボクがふたりを幸せにしてあげるよ。



だから、ボクを幸せにしてね。



「パパとママ」



< 4 / 13 >

この作品をシェア

pagetop