『サヨナラの3分前』【短編集】
5.あなたの初恋は、あたしの失恋。
〜あなたの初恋は、
あたしの失恋。〜
「好きな人が出来たんだ」
幼なじみの彼の表情は、
照れくさそうで、嬉しそうだった。
「そっか。応援するね」
あたしの顔は、うまく笑えているだろうか…。
小さいころから一緒にいたけど、あたしとあなたは単なる友達…。
「告白した方がいいかなぁ…」
どうしようか、彼は真剣に悩んでいた。
「うーん…どうだろう」
どうすべきか、あたしは自分の事ばかり考えていた。
些細なことで喜んだり、落ち込んだり、
そんな彼を見るのは、初めてだった。
「付き合うことになった」
彼は満面の笑顔で、あたしに報告した。
「よかったね」
彼の満面の笑顔から、目を背けることしかできなかった。
あなたの幸せが、あたしを不幸にする…。
その夜、体を丸めて布団にくるまった。
泣くと思った。
正直…泣きたかった。
けど…涙は一滴も零れ落ちなかった。
「初デートはどこがいいかなぁ?」
「この服どうかなぁ?」
「喜んでくれるかなぁ?」
あたしは、ただ曖昧に頷くだけ…。
どうして…
あなたは無邪気に、あたしを傷つけていくの?
ねぇ…どうして?
あたしは立ち上がる。
自分自身を傷つける為に…
あなたをずっと好きでいる為に…
本当の涙を流す為に…
ちゃんと失恋する為に…。