『サヨナラの3分前』【短編集】
7.落としもの、探しもの。
〜落としもの、
探しもの。〜
「落し物を見ませんでしたか?」
毎日のように、駅前で見かけるおじさん。
「何を落としたんですか?」
「なんだっけなぁ…」
何を落としたかもわからない。
「ここで落としたんですか?」
「だったような…」
どこで落としたかも定かでない。
「いつ落としたんですか?」
「最近のような…昔のような…」
それすらもわからない。
くたびれたスーツに、乱れた髪。
道行く人は、薄気味悪そうに、おじさんに近づかない。
次の日も、また次の日も、落し物を探すおじさん。
いつ、どこで、何を落としたんだろう?
何日かして、駅前に行くと、人だかりが出来ていた。
軽快なギターの音と、高らかな歌声。
おじさんだった。
「見つかったんだんね」
おじさんの落し物は…夢なんだ。