『サヨナラの3分前』【短編集】
9.勇ましき者
〜勇ましき者〜
目を覚ます。
窓の光は薄暗く、空は濃い青。
時計の針は、5を指していた。
午前?…午後?
寝ぼけている。
午後のこの時間に、こんな熟睡しているわけないのに…。
なんだかモヤモヤする。
嫌な夢を見た…。
怖い夢ではなく、まだ幼かった頃の懐かしい夢。
ついさっき見ていたはずなのに、思い出そうとしても思い出せない。
遠い記憶のように、あやふやで懐かしい夢。
卒業文集の将来の夢に『有名になりたい』と書いた頃の夢。
あの頃、僕は何にでもなれる気がしていた。
怖いものも恐れず、その気になれば空だって飛べたんだ。
僕は寝返りをうつ。
あの頃の僕は、今の僕を見て、
笑うだろうか、それとも泣くだろうか…。
もぞもぞと、隣に眠る彼女が僕に寄り添う。
僕は、彼女を起こさないように、そっと布団を掛け直す。
あの頃の僕に言ってやろう。
「夢の形が少し変わっただけなんだ」
恋の一つもした事のないお前には、ちょっと早いかな?
大丈夫、そのうちわかるさ。
「いい夢が見れますように」
僕はゆっくりと目を閉じる。
明日の僕に怒られないように、僕は再び眠りについた。