キミがいなくなるその日まで
くるりと振り向いたその顔は驚いていた。
合わせ鏡みたいにシンと比べると目元がよく似ている。
『………シンのお友達?』
やっぱりこの人はシンの母親だ。私のお母さんより歳をとってるように見えるけど間違いない。
『あの、少し時間ありますか?』
私はずっとこの人と話してみたいと思ってた。
だってシンを産んでくれた人。そして子供に可愛くないと言わせてしまう人。
私達は患者がよく利用する休憩スペースに移動した。ここは自動販売機と一つのテーブルを挟んで椅子が二脚あるだけの空間。
『はい、どうぞ』
シンのお母さんは私にお茶を買ってくれた。私の目にはとても優しそうに見えるけど……
『有難うございます。私岩瀬マイって言います。
……あの、シンに会いに来たんですか?』
普通は発作が起きた時点で駆けつけるはずだけど、もしかしたら来れない事情があったのかもしれないし。
『いいえ、風間先生にお礼を。いつもシンがお世話になってるから』
なんだろう、この違和感。
なんだか胸がモヤモヤする。
だってシンは呼吸が止まってしまったほど危ない状態だったんだよ。それなのにお世話になってるお礼?
『親なら子供の顔を見るのが先じゃないですか?
今シンがどんな状況か知ってますよね?』
集中治療室は一般に入る事は出来ないけど家族なら入る事が出来る。それなのにこの人は一度も病院に来なかった。
『でも私には何も出来ないから先生達に任せておけば安心でしょう?』
とても優しい口調でなんて事言うんだろう。
気付くと私は拳を握りしめていた。