キミがいなくなるその日まで
それから私は上着を取りに行ってシンと久しぶりに屋上へと向かった。
───キィィィと錆びたドアを開けるとひんやりと冷たい風。そう言えば私も外の空気を吸うのは久しぶりだった。
『あー気持ちいい』
シンは両手を突き上げて伸びをしている。
銀色の手すりは氷みたいに冷たくて、私は袖口を手の先まで覆(おお)った。
『やっぱり外の匂いはいいね。スーって体に染み込んでいく感じがする』
シンは屋上に来れた喜びを全身で感じていた。私はゆっくりその隣に並んでこの光景もなんだか久しぶり。
『マイ、寒くない?』
シンが突然こっちを見るから私はとっさに目線を変えた。
『別に大丈夫』
やっぱりシンは背が伸びてる。私の方が目線は上だったのに今は同じくらい。
だから目が合うとドキッとしてしまう。
14歳の子供だって思ってたのにシンは日に日に大人になっていくし、きっとすぐに私が追い付けないぐらい大きくなるんだろうな。
『マイ、お母さんの事ありがとう』
シンが景色を見ながらそう言った。
『なんの話?』
なんて、とぼけてみる。だって何でもお見通しなんてずるい。
『俺の代わりに色々言ってくれたんでしょ?』
シンの髪がふわりと揺れる。
どうしてシンには色々バレちゃうのかな。私だって少しはカッコつけたいのに。
『…………私は自分が言いたい事を言っただけ。
シンが言いたい事はシンが言いなよ。これからはそれが出来るでしょ?』
私のお節介はここまで。
後はシンとシンのお母さんの問題だから。
『うん、本当にありがとう』
やっぱり私は最後までシンの目を見れなかった。