キミがいなくなるその日まで
───コンコンッ。
302号室をノックすると中からシンの声が聞こえた。その声はガラガラ声でシンもまた数日前から咳が止まらなくっていた。
『また折り紙折ってる。たまには寝てなきゃ駄目だよ』
シンの部屋のゴミ箱には飲み終わった薬の袋。
その薬の数もまた増えた気がする。
『咳が辛いだけで体は元気だから』
ゴホゴホッとむせるシンの背中を私は優しく擦った。
シンは嘘なんて付いてない。体や心は元気だけどそれに覆い被さってくる症状。私も発作や胸の痛みがなければ普通だしシンもそうだと思う。
でもいつ襲ってくるか分からないのが心臓病の怖さだ。
『マイ、これ』
シンが先程まで折っていた折り紙を指さした。
『………これって…』
『3月3日はひな祭りでしょ?』
そこにあったのはお内裏(おだいり)様とお雛様。手のひらサイズだけどちゃんと着物も着ていた
『それ、今までで一番難しかったかも』
そんなの見れば分かるよ。こんな可愛いお雛様を作れるのは世界中でシンだけ。
『ひな祭りって女の子のすこやかな成長を祈る日なんだって。だからマイにあげる』
マスクをしているシンの目が細くなる。
私はいつもシンに貰ってばっかりだ。これじゃ何を返しても返しきれないよ。
『じゃぁ、お内裏様はシンだね』
お雛様にはお内裏様が居なきゃ駄目なんだから。
二つ揃ってないと寂しくて祝えない。
『ねぇ、シン』
私はその後、ある事をシンに告げた。
シンは驚いていたけどすぐに嬉しそうに頷てくれた。