キミがいなくなるその日まで
3月の海はまだ冷たくて、勿論誰も泳いでる人は居ない。
『えいっ!』
シンが突然水を私にかけてきた。
『なにすんの?』
不意討ちを食らった私は一瞬ムスッとした。
『えいっえいっ!』
それでもシンは私に水をかけてきて顔や洋服が濡れていく。
『もう、なに。冷たいよバカ』
必死で水を払い除けてもその隙間からどんどん体に命中してくる。
『だってこうする為に来たんでしょ?』
シンの一言で火がついて私は足を使ってシンに攻撃開始。足から跳ね上がる水しぶきはシンをびしょびしょにした。
『足はずるいよっ!』
『さきに仕掛けてきたのはそっちでしょ?』
今は水が冷たいとか風邪をひくとかそんなの関係ない。
私達は患者でもなく病人でもなく、
岩瀬マイと宇佐見シンっていう名前の生き物。
みんなと同じ息をして生きている存在なの。
『あーぁ、こんなに濡れちゃって帰りどうする気?』
私は砂浜に座り込みバッグからタオルを取り出した。
『こうしてれば自然に乾くよ』
私の隣に座ったシンの髪の毛を同じタオルで拭いてあげた。シンの髪の毛はサラサラでまつ毛にはキラキラとした水滴。
思えば私もこんな風に水で遊んだのは初めてかもしれない。
家族で海に行く事はなかったし、唯一小さい頃に1度だけ来た時はパラソルの日陰の中にずっといたっけ。
同じ年の子達が楽しそうにはしゃいでるのを羨ましく思った記憶だけは覚えている。