キミがいなくなるその日まで




外の空気は冷たくて呼吸をしたら肺がスーっとした。久しぶりに地面に足を付けてスリッパとは違う足音を響かせる。

入院前は青々としていた木がいつの間にか真っ赤に色づいていた。

そんな景色を見ながら1ヶ月以上振りに電車に乗った。


この薄暗いホームと駅のアナウンス。

これが私の日常だったんだなっと噛み締める。


車内には通勤中の社会人や通学途中の学生達がいた。こうして紛れてると誰も私が病院から来たなんて気付かないだろうね。

匂いも雑音も何もかもが違う。私は一つ一つそれらを思い出すように電車に揺られ、あっという間に高校の最寄り駅に着いてしまった。


駅前には“松栄高校文化祭はあちら”と道を知らせる看板が出ていた。

みんな文化祭に行く人達だろうか?

私服の人達の姿がちらほら見える。


私は歩き慣れた道を進み数分後に高校の門が見えた。毎朝生徒指導している先生の姿はなく、殺風景の門もカラフルに飾り付けられていた。


『………あ』

思わず声が出てしまったのは校門のアーチを見た時。


“松栄高校文化祭へようこそ”と可愛い文字で色々なイラストが書かれている。

これが私のやるはずだったもの。

勿論アーチ係りは私の他にも沢山居たけど文字は私が書くことになっていた。

だけど、飾られたアーチに私の文字はない。


『岩瀬!!』


前方から私を呼んだのは担任の山口先生だった。


『体調は平気か?事前にお前の親御さんから連絡もらって。何かあったらすぐに言うんだぞ』

山口先生は体育会系でいつも熱血。でもその熱さが私に向けられた事はなくて病気をいつも気にかけてくれていた。

それが逆に辛かった事もあったけど。


『大丈夫、色々すいません』


私はそう言って、自分の教室へと向かった。



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