キミがいなくなるその日まで
『─────岩瀬マイさんだよね?』
風が冷たく頬をかすめ乱れた髪を耳にかけようとした時、私の背後から声が聞こえた。
びっくりして振り向くとそこには見知らぬ少年が一人で立っていた。
名前も知らなければ顔も知らない人だけど、唯一分かる事と言えばこの人も私と同じだって事。
パジャマ姿に紺色のカーディガンを羽織り、日焼けをしていない白い肌。
『あんた誰?』
そう問いかけると、少年はニコリと笑って名前を名乗った。
『宇佐見シン』
シンの目はキラキラとしていて、私は無言で目を反らした。
再び外の景色に目を向けたけど背後からは物音一つしない。
この空気に耐えられなかったのは私だ。
『何か私に用なの?』
不機嫌そうに聞くとシンは首を横に振った。
『ないよ。用がなくちゃ話しかけちゃダメ?』
そんな返答に私は露骨にため息をつく。
初対面の人に対して私はこんなに拒絶するタイプではなかった。
高校に通ってた時は自分から話しかけたり人付き合いは割りと上手い方。
でもここ1ヶ月病院に入院するようになってからは誰かと会話するのもだるくて、なんだかあの頃の自分が嘘みたい。
だって友達も人付き合いもこの場所ではいらない事で、私にとっては無意味な事だから。