潮騒
別にそんなのいつでも良かったのに。


でもレンがわざわざここまで持ってくるというので、詳しい店の場所を教え、電話を切った。


美雪は頬杖をついてこちらをじっと見る。



「誰ですかぁ?」


「そんな怖い顔しなくても、ただの友達だよ。」


それが一番無難な返答なのに。


なのに彼女は口を尖らせながら、でも男だったでしょー、と文句を垂れる。


余程このクリスマスムードが気に喰わないらしいが。



「ルカさんだけモテちゃって、ズルイですよ。」


「別にモテてないから。」


「ほらぁ、美人はすぐそうやって言うんだから。」


何であたしが絡まれなきゃならないんだろう。


ちょっと鬱陶しくなってきたので、無視を決め込むように煙草を咥えた。


みんなどこか浮かれ気分で笑顔を零して話している。


けれどどうせあたしは仕事だし、イベントがあるからまた店長が客を呼べと言うだけで、楽しめる要素はどこにもない。


キャバ嬢なんて、所詮はそんなもんじゃんか。


ため息混じりに煙を吐き出した、その時、



「ルカー!」


と、後ろから抱き締められて、ぎょっとした。


恐る恐る顔を向けてみると、やっぱりふざけた調子のレンが、ケラケラと笑っている。


他の客からの視線が痛いし、何より美雪はそれを見てあんぐりと口を開けていた。



「やめろって言ったでしょうが、馬鹿!」

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