潮騒
言葉に詰まってしまった。


だってまた脳裏をよぎったのが、マサキの顔だったから。



「あ、ルカちんにも誰か紹介してあげよっかー?」


「いらないっつーの。」


ケラケラとレンは笑う。


笑っているのに、どこか寂しそうな顔だった。



「でもさ、好きになっちゃったらもう、そこからは理屈とかじゃないわけじゃん?」


「………」


「もしも想いが抑えらんないくらいにおっきくなっちゃったら、もうそういう自分から目を逸らせないんだし。」


捨てたはずの記憶に蝕まれる。


まだ何も考えずに恋をしていた頃の感情が、顔を出す。



「はいこれ、借りてたやつね。」


レンはあたしにDVDを手渡した。



「それ観てたら、何か恋してぇなぁ、って思っちゃった。」


映画の内容は、壮大なSFファンタジーだったはずなんだけど。


ふざけているのか、真面目なのか。


よくわからないレンの思考に、ちょっとだけ笑ってしまった。



「つーか、今年こそはルカじゃない可愛い女の子と年越しカウントダウンしてぇもん。」


「アンタ喧嘩売ってんの?」


「いや、もうお前の顔は見飽きたってだけの話。」


「そりゃあたしの台詞でしょ!」


こうやってずるずると、あたし達は嵌まっていく。


次第に引き返せない方へと、堕ちていってることにも気付かずに。

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