潮騒
連れてこられた場所は、ちょっと怪しい感じの雑居ビル。


まぁ、街にはこんなのが溢れてるから、今更珍しいものでもないけれど。


事務所なのだと、マサキは教えてくれた。



「仕事のもんとか、色々置いてるだけだけど。」


薄明かりに照らされているだけの、足元さえおぼつかないような階段を昇り、プレートも掲げられていないドアを開ける。


と、中は雑然としている会社っぽいような造りだった。


数台のパソコンと机、テレビと、あとは来客用なのか、黒革のソファーとテーブルがある。


情報屋ってちょっと馬鹿にしてたけど、十分ご立派なものだと思う。



「すぐ終わるから、その辺で待ってて。」


彼はそれだけ言い、机の上に置かれた何かの資料っぽいものに目を通していた。


そこには誰の、どんな秘密が書かれているのか。


でも覗き込もうと思うほどの馬鹿じゃないので、あたしはソファーに腰を降ろし、暇潰しがてら、携帯をいじっていた。


と、その時。



「やーっぱり!」


ドアが開く音と同時に、男の声。


振り返るとそこには、予想通り、オッドアイの彼がいた。



「何か電気ついてたから、まだいるのかと思って上がってきてみたたけど。」


そう言ってから、チェンさんはあたしを見て、くすりと笑った。



「ルカちゃんと一緒だったなんて、俺邪魔しちゃった?」


「あぁ、すっげぇ邪魔だから、どっか行け。」


マサキは彼を見ることもなく、棒読みで言う。


なのにチェンさんは大爆笑だった。

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