潮騒
「……え?」


「だからぁ、俺戸籍ないって前も言ったじゃーん!」


やっぱりあれは冗談なんかじゃなかったらしい。


ぎょっとしたままのあたしをよそに、



「まぁ、マサキからは日本語の読み書きだけは人並みにしとけ、ってよく怒られるんだけど。」


彼は何でもないことみたいに笑っていた。


続いて画面に登場した織田信長を見ても、シンチョウ、シンチョウ、と嬉しそうなご様子だ。


あたしは言葉が出なかった。



「で、ルカちゃんはどうしてそういう顔してるの?」


チェンさんはオッドアイの瞳を細め、



「俺のこと、人間じゃないみたいな目で見てるでしょ。」


一瞬だけ、そこには憎悪のようなものさえ見えた。


そんなつもりはなかったのに。


なのにチェンさんはテレビを消して、リモコンを放り投げる。



「んな顔されちゃうと、殺してやりたくなっちゃうじゃんか。」


笑いながら、彼は無邪気にそう吐き捨てた。


ぞっとするほど冷たい言葉。


けれども彼はすぐに表情を戻し、



「なーんて、そんなことしたら俺マサキに怒られちゃうしー。」


掴めない人だ。


でも、さっきの顔がお遊びなんかじゃないことくらいはわかる。

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