潮騒
「どうして誤魔化そうとするんですか?」


「……え?」


「チェンさんは人当たりの良いフリしてるだけで、本当は世界中の人間すべてを憎んでるって、マサキが前に言ってました。」


弱ったなぁ、なんて彼は、宙を仰ぐ。



「嫌な男だよね、アイツもさ。」


「………」


「ルカちゃんも、マサキと同じこと言うんだね。」


「え?」


「何で誤魔化そうとするんだよ、ってさ。」


そう、息を吐いてから、



「ごめんね、さっきは八つ当たりしちゃって。」


チェンさんはへらっと笑った。


それはもう、無意識のうちに彼の癖になっているのかもしれないけれど。



「オッドアイは忌み子の証だから気持ち悪いって、昔言われたんだよね。」


忌み子――忌み嫌われた子供という意味だ。


別に好きでこんな目に生まれたわけじゃないのにね、と彼は言う。



「だから俺、世間様に恥ずかしい存在だから、なら初めからいないことにしようって感じらしいよ?」


戸籍がない理由は、出生届を出されていないから。


ここにいるのに、ちゃんと生きてるのに。



「物心つくより前から真っ暗な場所にひとり隔離されて、与えられるのは食事だけなんだから。」


こんなにも悲しい生い立ちを、あたしは知らない。



「空を飛ぶ鳥が、ただ自由で羨ましくて。」

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