潮騒
周りにいた子たちでさえも、その様子には顔を引き攣らせ、足を引いていた。


悪いなら謝るから、もう許してよ。


おばあちゃんやお父さんよりずっと怖い目をしないでよ。



「母さんはお前の目の色が違う所為でみんなから責められて自殺したんだ!」


「…やめっ…」


「お前さえ生まれてこなきゃ、今も母さんがいてくれたはずだったのに!」


ヨンハが自分を憎んでいた、それが理由。


だから殺されたって仕方がないのだと思った。


思ったはずだったのに、本能では生きることを望んでしまったのかもしれない。



「やめてくれよっ!」


今ではもう、あの瞬間のことはあまり覚えてはいないけれど。


隙をついてヨンハの体を突き飛ばし、地面に転がったバットを掴んだ。


ドスッ、とくぐもった音が響く。


それと同時に、ヨンハは悲鳴にも似た声を上げた。


周りの子たちが逃げていくことにも気付かないくらい、とにかく夢中でそれを振り落としていた。


スズメの血と混ざる、バットについたヨンハの血。


それでも、息が切れ切れになってもまだ、取り憑かれたように繰り返す。



「…ヨンハ?」


でもふと我に返った時、彼はもう、ぴくりとも動くことはなかった。


そこで初めて、なんて大変なことをしてしまったのだろうかと思った。


血の気が引いた思考とは正反対に、無意識のうちに蔵を一瞥してから、空を見上げた。





得たものは、血に染まった翼。

もう自由になれるんだ。





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