潮騒
「この目もね、カラコンとかすれば良いのかもしれないけど、俺あれ体質的に合わないみたいでさぁ、すぐ痛くなっちゃって。」


困っちゃうよねぇ、なんてチェンさんは笑う。


オッドアイを隠すために、だから彼はいつもサングラスを掛けているのだろうか。



「…でも、どうしてそれをあたしに言うんですか?」


いぶかしげに問うと、



「だってルカちゃんってマサキと一緒で、何だかんだで他人を否定したりなんてしないタイプでしょ。」


「………」


「そうじゃなきゃ、普通は話の途中で逃げちゃってるよ。」


彼はそう言ってから伸びをした。


自由と引き換えにチェンさんが手に入れた、黒い翼。



「今の生活って、幸せだと思いますか?」


「さぁ、どうなんだろうね。」


と、彼は肩をすくめ、



「そういうのって上を見ちぇばキリがないし、まぁ、お金次第で何でも出来ちゃうのは、悪いことじゃないと思うけど。
ほら、美味しいご飯食べられたり、ふかふかのベッドで寝られたり、ってね。」


「………」


「でもあのまま何も知らないまま一生を終えてても、それはそれで幸せだったのかもしれないと、今では思ってるんだ。」


憎しみを知らずに命を終えられたなら、それは一概には不幸だとは言えない、ということなのか。


この世は良くも悪くも、色々なものにまみれている。


だから一度染まってしまったなら、もう無垢ではいられないのだろうけど。

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