潮騒
知らない街の、よくわかんないレストランで食事を終え、店を出た頃には夕方だった。


それから渋滞も手伝い、神社に着いたのは夜を迎えてからのこと。


人ごみに酔いながらもはぐれないようにと手を繋ぎ、参拝して、おみくじを引いて。


何でもないことだけど、それが妙にくすぐったくも思えてしまう。


心なしかはしゃいでいたあたしは、ふと、お守り売り場で足を止めた。



「何だよ、買うの?」


「てか、折角来たんだし、このまま帰るのも勿体ないかなぁ、って思って。」


けれどそこにあったのは、恋愛成就だとか、家内安全だとかのお守り。


あたしには無縁で、選ぶことなんて出来なかった。


するとマサキはそのうちのひとつを持ち上げ、



「ならこれ買えば?」


それには、無病息災、と書かれていた。


思わず目をぱちくりとさせていると、



「厄除けって感じだし、お前どう見ても体弱そうなタイプだから。」


それにさ、と彼は言う。



「俺、お前に商売繁盛とかの買われたら、やっぱちょっと嫌だから。」


マクラ嬢。


脳裏をよぎった単語と、マサキの苦笑い。



「って、別に責めてるつもりねぇし、簡単に辞めろだとか、俺はそんなん言える立場でもねぇんだけど。」


痛いくらいに千切れそうだった心と、風の冷たさ。


ここで泣くなんて卑怯だとわかっているからこそ、それを堪えれば余計に言葉が見つけられない。


でも、じゃあもう辞める、なんてことも言えなかった。

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