潮騒
「何か理由があるんだろうなって思うけど、俺もう無理に聞き出してお前に辛そうな顔させんのも嫌だし。」


「………」


「つか、自分のことひとつ話せない俺が言うなよ、って感じだけどな。」


より苦しいのは聞く方なのか聞かれた方だったのかは、わからない。


けれどやっぱりこんなあたし達じゃ、所詮は恋人ごっこしか出来ないのだろう。


大切だと思えば思うほど、余計に何も言えなくなる。



「じゃあこれ、ふたつ買おうよ。」


「……え?」


「あたしの分と、マサキの分。」


だってあたしも、彼が商売繁盛のお守りなんかを買うところは見たくないから。


だからふたり、ささやかな願いで良い。


あたし達がお守りを、ましてやお揃いで買うなんてガラじゃないのかもしれないけれど。



「風邪とか引かなきゃ十分じゃん。」


あたしが笑うと、マサキも笑った。


笑ったら、彼はそれをふたつ買って、片方をプレゼントしてくれた。


決して高級なブランド品でも、宝石が散りばめられたようなアクセサリーでもないけれど、でも嬉しかった。



「これ粗雑に扱ったらインフルエンザとかになりそうだよな。」


それでも大切にしたかったの。


このお守りも、マサキのことも、ふたりで過ごす時間さえも。


例えこんな日々が思い出の中に消えるようなことになろうとも、今だけは、許されたかったのかもしれない。

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