潮騒

朝焼けの色

平日の昼間を少しばかり過ぎた頃、喫茶店の店内はクラシカルモダンな音楽に包まれながら、平穏な時間が流れていた。


窓の外には、すっかり冬枯れへと近付いた街路樹の並木。


いつまで経っても慣れないコーヒーの味に眉を寄せながらも、煙草を灰皿へとなじる。


と、彼女は5分遅れて、けれど焦る様子もなくあたしの向かいへと腰を降ろした。



「久しぶりだね、お母さん。」


お母さん、なんていっても、決して女を捨ててないような容姿。


サングラスを掛けたままの彼女の瞳が、あたしに向いているのかなんてわからない。



「これ、今月分ね。」


差し出したのは、現金の入った封筒。


あたしは毎月決まった日に、お母さんにお金を渡している。


けれど彼女は眉のひとつも動かすことなくそれを受け取り、中身を確認した。



「あら、いつもより多いじゃない。」


だからって別に、感謝の言葉なんてないのだけれど。



「また入院するかも、ってこの前、お母さん言ってたでしょ。」


あぁ、と彼女は思い出したように呟いた。


体が悪いといつもお母さんは言うけれど、でもそれが真実かどうかなんて定かじゃない。


それでもお金が必要だと言われれば、あたしは黙ってそれを用意する。


だってこんなことしか出来ないから。


だから稼ぐためには、何だってやらなければならないのだ。



「体、大事にしてね。」

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