潮騒
「ルカ!」


弾かれたように顔を上げると、携帯片手のマサキの姿。


あたしは必死で笑顔を作った。



「何か人混みに酔ったみたいで、ちょっと気分悪くなっちゃって。」


「大丈夫か?」


いつも上手く涙は流れない。


ただ、マサキは何も言わず、あたしの冷たくなった手を取ってくれた。


自分がどれほど汚い存在なのかくらいわかってるくせに、それを振りほどけない。


6歳の頃のまま、まるで迷子のようなあたし。


結局はどれほどあの街から離れたって、いつも自分自身からは逃れられないね。


車に乗り込んでみても、相変わらず震えなんて治まらない。


とても正常ではなかった。


だから言葉にしていたのかもしれないけれど。



「あたし一生こんなだよ。」


「………」


「マクラ、きっと辞めることなんてないだろうから。」


マサキの顔なんて見られなかった。


それでも重すぎる沈黙が、狭い車内を包み込む。



「誰にだって抱かれてるし、お金がすべてだし、所詮は世の中なんて簡単だよねー、みたいな?」


笑って言ったつもりだった。


けれどあたしの視界はぼやけていた。



「もうそれ以上言うなよ!」

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