潮騒
帰りの車中、辺りはもうすっかり夜の帳に包まれていた。


涙が止まらなかった瞳はいつの間にか腫れぼったくなっていて、まぶたまでヒリヒリとする。


それでもマサキはあたしと繋いだ手を、決して離そうとはしなかった。



「何か混んでるし、戻るの遅くなりそうだから、疲れたなら寝てろよ。」


「良いの、大丈夫。」


左手に握った無病息災のお守り。


生きたいと思うことさえ出来ないあたしなのに、どうしたものか。



「あ、雪だ。」


視線を上げると、闇空から舞い落ちた白い粉雪が一粒、フロントガラスに溶けて消えた。


儚いけれど、でも美しい。


せめてこんな風に散れたなら、あたしでも誰かの心に何かを残せたはずなのに。


マサキは不意にこちらを一瞥し、



「なぁ、さっきの話だけどさ。」


「え?」


「もしまたお前がひとりで苦しもうとするんなら、ちゃんと俺がいてやるから。」


「………」


「ずっと傍にいてやるとかはやっぱ言えねぇけど、でも何かあったらいつでも電話してこいよ。」


彼の手のぬくもりが確かに伝わってきて、心までほぐされる。


逃げ場所をくれた人。


あたしはマサキに、何か返せているだろうか。

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