潮騒
お正月の浮かれたムードも、過ぎてみれば簡単に日常へと戻ってしまう。


酒を飲んで、客に愛想をして、作った笑顔が虚しかった。


美雪から「飲みに行きましょ。」と誘われたのは、そんなある日のこと。



「ここの店長オリジナルのカクテル、すっごい甘くて美味しいんですから!」


あたしは美雪に海の色みたいなそれを押し付けられ、曖昧にしか笑えない。


大人の雰囲気が漂う静かなバー。


傍で飲んでいる不倫カップルは、ひそひそ声で談笑していた。



「で、何か話でもあった?」


切り出したのは、あたし。


彼女は一瞬驚いたような顔をして、でもすぐに酒を流してから、こちらに向き直った。



「何かずっと忙しくて聞けなかったけど、ルカさん最近どうなのかなぁ、と思って。」


「…どう、って言われても…」


「それにやっぱ気になるんですよね、あの日のこと。」


初詣のことだろうけど。


またいつものお節介なのか、それとも好奇心なのか。


くりくりとした目で問うてくる美雪に、あたしは肩をすくめずにはいられない。



「レンだって元気ないみたいだし、あたしそういうの嫌なんですよ。」


いつの間に、彼女はレンを呼び捨てにするようになっていたのだろう。


なんて、愚問なのかもしれないけれど。



「別にホントのレンは、いっつも元気なわけでもないけどね。」


あたしの言葉に美雪は視線を落とし、



「ルカさんとはいとこだって聞きました。」

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