潮騒
「だから?」


なのに彼女は答えない。


響くのは、モダンなジャズの音色だけ。



「レンのこと、どう思ってんの?」


長い沈黙に包まれながらも、聞かずにはいられなかったのに、



「…あたし、わかんなくて。」


「え?」


「今、レンに対して抱いてる感情が何なのか、わからないんです。」


毎日のようにメールをして、たまに食事に行って。


ただそれだけの関係ではあるけれど、でも迷っているのだと彼女は言った。



「流されたくないって思ってる反面で、でもどうしようもなく会いたくなっちゃう時があったりして。」


「………」


「裏切れない人がいるのに、気持ちが傾いちゃいそうで怖いんです。」


裏切れない人――恋人とかではないんだろうけど。


どうしても金を稼がなければならない理由がある、と言った美雪が何を抱えているのかなんて、今もあたしは知らないままだ。


彼女はふっと自嘲気味に笑い、



「レンのこと、好きになっちゃダメなのに。」


呟かれた言葉がただ沈黙に溶けた。


グラスに入った青色が揺れて、悲しげな美雪の顔が映される。


なくなってしまえば良かったのは、恋心という名の淡い感傷だったのか、それともこの世界で生きる目的だったのか。

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