潮騒
その想いを伝えるつもりはない、ということだろうか。


レンは息を吐く。



「美雪ってさ、実はすごい頑張り屋で、誰より周りのこと見てて、おまけえに物事を前向きに捉えられるすげぇヤツだなぁ、って。」


「………」


「でもさ、結局のところ、そこまで強い人間って実際にはいないじゃん。」


「そうだね。」


「だから俺、何にも出来ないんだとしても、一番近くにいてやりてぇの。」


胸が締め付けられるような思いだった。


今までずっと、恋愛というものを置き去りにしてきたレンが、抱いた気持ち。



「馬鹿だとか思うっしょ?」


「んなわけないじゃん。」


あたしは彼の頭をくしゃくしゃとしながら、



「アンタはあたしの自慢のいとこなんだからさ。」


頑張れ、なんて気休めを言うつもりはない。


宮城くんのことを背負ったレンが、それでも選んだものなのだから。



「ルカがそう言ってくれただけで、俺すげぇ嬉しいわ。」


どんな時でも、あたし達はこの街で、支え合って生きてきた。


やっぱり涙を流して抱き合うことはないけれど、でも、何もかもを分かち合って過ごしてきたんだ。


目を瞑ったそのままに、レンは微かに寝息を立て始める。


しょうがないなとあたしは、ブランケットを掛けてやり、彼の寝顔に祈りを添えた。


せめて夢でだけでも、レンが幸せだと思えるようにと。

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