潮騒
今日もファンタジーはありがたいことに満卓で、フロアは客の賑わいに溢れていた。


最近では美雪も着実に力をつけてきたようだし、きっともうすぐナンバーに入ってくるだろうと思う。


その程度の、変わりない毎日の中で、それは本当に突然のことだった。



「ルカさん、ご指名です。」


黒服があたしに声を潜ませる。



「北浜社長が来られてます。」


どきりとした。


かつては不動産王とまで呼ばれていた彼だが、あれからのことは、とんと耳には入ってこなかったから。


何よりやっぱり後ろめたい気持ちは残っている。



「お久しぶりですね、北浜さん。」


ぎくしゃくとした笑顔で席に腰を下ろすと、彼は疲れ切ったような顔で口元だけを緩めて見せた。


が、さすがに驚いた。


北浜社長は、会わなかったこのたった数ヶ月の間に、随分と老け込んだと思う。


そこにはかつての栄光と自信に満ちた様子はなく、白髪混じりの頭はまるで別人のよう。



「いつもので良いですか?」


動揺が顔に出ないようにと努めながらも、あたしは何とか酒を作る。


彼はふと、フロアを見渡した。



「ルカと出会ってから、どれくらいだったかな。」


「前のお店からだし、一年半くらいですかね。」


「そうか。
もっとずっと長かったような気がしていたが、数字で言うと寂しいものだな。」

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