潮騒
一体どうしたというのだろう。


昔は傲慢ささえ見え隠れするようなことばかり言っていた人が、こんな風な目をするなんて。



「最近、少し疲れてしまってね。」


「………」


「まぁ、今まで散々やりたいようにしてきたツケが回ってきたのかもしれないが、さすがに嫌にもなるよ。」


北浜社長が持ち上げたグラスの氷が、カランと鳴った。


この場所だけ、切り取られたように静かに時間が流れている。



「お疲れなら、たまには旅行でもしてリフレッシュするべきですよ。」


「そうだなぁ。」


と、煙草を咥えた彼は、



「ルカと一緒に温泉ってのもありかもなぁ。」


だからって、本気でもない感じだ。


更に戸惑ってしまったあたしは、上手い会話ひとつ見い出せない。


北浜社長はしみじみと白灰色を吐き出しながら、



「なぁ、聞いても良いか。」


「はい?」


「ルカは何を手にしたくて生きているんだ?」


その問いの意味がわからず、何より言葉が出なくなってしまう。


彼はまたグラスへと視線を落とし、



「よく人は、失ってからじゃなきゃ気付けないとか言うが、あれは本当にそうなのかもしれんな。」

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