潮騒
「……え?」


「最近はそんなことばかり考えてしまうんだ。
まったく、年の所為かもしれんがなぁ。」


皮肉混じりに彼の台詞。


何を手にしたくて生きているのか、という北浜社長の問いだけが、ぐるぐると頭の中を回っている。


金にも、ナンバーワンという地位にも名誉にも、さほど興味なんてものはないし、あたしはきっとそれを失ったって生きていける。


ホームドラマのような家族がほしかった、なんてことを言い出せばキリがないのだし、所詮は理想論だとも思うから。



「難しいお話ですね。」


そうか、と彼は押し黙った後で、



「出来ることなら、ルカは俺のようにはならないでくれ。」


北浜社長のように、とはどういうことなのか。


あたしが首をかしげた時、



「もうお前を抱けないと思うと、それはそれで辛いものだ。」


「……え?」


と、驚いた声を遮るように、タイミング悪く黒服が呼びに来た。


さすがにこのまま他の卓には行けないと思っていると、



「そろそろ帰るから気にするな。」


北浜社長は延長することなく立ち上がる。


いつもなら、平気で閉店まで豪遊する彼なのに、やっぱり何かがおかしかった。


見送りはいらないと言われたものの、あたしは無理に店の外に出た。


冷たい風と、ネオンの輝き。


そんな中で、北浜社長の背中はかすんでしまいそうなくらいに小さく見えた。

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