潮騒
思わず言葉を詰まらせたあたしに彼は、



「いや、まちゃまちゃは寝てるかな。」


わかっているのかどうなのか、すぐにそんな風に言って右折をやめた。


勘の鋭い人なのだとしたら、今はちょっとだけ困ってしまうが。


チェンさんはオッドアイの瞳でこちらを一瞥し、



「アイツきっと、ルカちゃんのこと本気で好きだと思うよ。」


「……え?」


「あんな風に見えてもわかりやすい男だしね、別に口には出さないけど、そうなんじゃないかなぁ、って。」


「………」


「優しいでしょ、まちゃまちゃは。」


彼はにこにことした顔で、どこに向かっているのか適当に車を走らせている。



「マサキってね、どうにもならないこと抱えてるから、あれで結構臆病なんだよ。」


「………」


「けどさ、何か大切なものが出来るのって良いことじゃん?
だから俺はそれで十分だと思ってるんだけど。」


チェンさんは、話せば話すほど不思議な人だと思ってしまう。


けれど物事をストレートに考えるタイプなのだろう、それが少しばかり羨ましくも思えてしまう。



「さっきの女の人って、カノジョですか?」


「そういうのじゃないけど、今俺の中ではマサキと同じくらい大切ではある、かな。」


素直にそう言った彼の笑顔は、屈託のないものだった。



「何かさ、幸せとか感じてみたいじゃん、こんな俺らでも。」

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