潮騒
「これ何ですか?」


なんて怪訝な顔をした刹那、紙袋の口から中身が覗いた。


そこに見えたのは、ぞくりとするほどに黒い、金属塊。



「まったく、実弾入りのトカレフを無造作に扱うなって、ルカちゃんからも怒っといてよねぇ。」


実弾入りの、トカレフ?


そんな、まさか、嘘でしょ。


だってマサキはこれが精巧に出来ただけのオモチャだと言っていたし、脅しのためだと思っていたのに。


あたしははっとしたようにそれをチェンさんに突き返し、



「勘弁してくださいよ、ホント。」


「あれれ、まさかルカちゃん知らなかった?」


冷や汗の滲むあたしに彼は、



「このトカレフは紛れもなく本物だし、撃ったらマジでドーンってなるよ。」


子供みたいな言い方で誤魔化さないでほしい。


意志とは別に、恐怖からか、煙草を持つ手が僅かに震えた。


彼はくすくすと笑いながら、



「ねぇ、5年前にこの街で起きた、堀内って組によるトカレフ密輸の案件、知ってる?」


「……え?」


「何人かの死者や逮捕者も出て、当時は俺らまでゴタゴタだったよ。」


聞き覚えくらいはあった。


確か、この街で一番大きな堀内組が、海外の組織と組んで拳銃を密輸したという話だ。


詳しいことは知らないけれど、でもそれ以降、この街でも発砲事件が多発していたのだとか。



「これはね、マサキがあることと引き換えに貰ったものなんだ。」

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