潮騒
結局チェンさんは、あたしをマンションまで送ってくれた。


ドライブのようなことをしていたために、もうすっかり明け方も近くなってしまっていたけれど。



「…何か、ありがとうございました。」


「うん、気にしないで。」


返事を聞き、車を降りた時、



「あ、ルカちゃん!」


彼があたしを呼び止める声に振り向いた。


チェンさんはオッドアイの瞳を柔らかく緩め、



「俺の親友は良いヤツだって保証できるから。」


「………」


「だからたまにはマサキに連絡してやってよ、アイツ絶対喜ぶと思うからさ。」


こういうことを言う人だとは思わなかった。


世界中の人間を憎んでるという反面で、自分の内に入れた人に対しては、きっと驚くほどに優しいのだろう。


チェンさんの言葉に笑ってしまうと、



「元気出してなきゃ、人は悲しみや苦しみに飲み込まれちゃうんだって。」


「…えっ…」


「これ、さっきの女の人の受け売りだけど。」


それじゃあね、とだけ言い、彼は車を走らせた。


去っていく、真っ赤なマスタング。


吐き出した吐息は闇空に滲み、星の消えた夜を憂いてしまう。

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