潮騒
とても真っ直ぐ家に帰る気分にはなれなくて、とりあえず的に街へとやってきた。


が、することもなく、欲しいものもない。


雑踏に目をやったところで、余計にひとりぼっちを感じさせられてしまう。


空はいつの間にか、泣き出してしまいそうな色を浮かべていた。


あたしは無意識のうちに携帯を取り出し、電話帳から選んだ人の名前にコールする。



『どうしたんだよ、珍しいな。』


マサキの開口一番はそれだった。


本当に珍しいことをしてしまったと、自分でも思う。



『何かあったか?』


けれどその問いに答えられなかったあたしに彼は、



『なぁ、それより暇してんならどっか行かね?』


何も聞こうとはせず、電話口の向こうの声はただ優しいものだった。


あの銃はオモチャだと思ってたのに、なんてことを今更言おうとは思わない。


だってそんなことには何の意味もないから。



「そうだね、行こうか。」


通話を終了させ、腕時計へと視線を落とした。


けれどいつも一緒に目に入るのは、手首の古傷。


そこにぽつりと雫が落ちて、でも涙じゃなくて降り出した雨だったということに、あからさまに安堵してしまう。


あたしを残して通り過ぎる人の波。


いっそ紛れて消されてしまえば、という思いは、いつも拭えない。

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