潮騒
こんな日は、正常なんかじゃいられなくなる。


酒を飲んで、とにかく全てを振り払ってしまいたかった。


そんなところもまた、あたしとお母さんは似ているのだけれど。


ヒートアップした客があたしにイッキを促してきて、その勝負に勝てば、新しいボトルを卸してくれる、というものだ。


その卓だけで、続けざまに5杯。


さらに他の卓でも勧められるままに飲み、閉店した頃には、あたしはろくに歩くことさえ出来なくなっていた。


けれど売り上げが全てのこの店では、そんなことを咎める人間なんているはずもない。


この街を代表する店とは名ばかりの、えげつないだけのスタッフの集まり。


ろくなもんじゃない店の、ろくなもんじゃないナンバーワンのあたし。


笑いさえ込み上げてくる。



「ルカさん、お疲れ様っす。」


ソファーにうずくまるあたしに近付いてくる、担当の黒服。



「今日すごかったっすね、一晩でこんくらい稼いじゃいましたよ。」


彼は本日のあたしの売り上げを指で示してくれるが、正直邪魔だからどこかに消えてほしいというのが本音だ。


こめかみを押さえ、ため息を混じらせた。



「良かったね、アンタも嬉しいでしょ。」


けれども嫌味さえも、彼のにんまり顔は崩せない。


キャストにはそれぞれ担当というものがいて、女の子の売り上げによって、彼らはバックを得る仕組みだ。


そんなコイツも、今やあたしのおかげでホール長にまで登り詰めた。



「んなこと言って、俺も付け回しに気遣ったんすからー。」


「あーっそ。」

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