潮騒
もう夕方も近かったので、店内にそれほど賑わいはなかった。


美雪とレンが頼んだケーキ数個が運ばれてきて、勘弁してくれ、と心底思う。



「ルカさん、疲れたんなら糖分取らなきゃ!」


差し出された皿は、受け取れない。


あたしは頬杖をついて向かいにいるふたりを眺めた。


はっきり言ってお似合いだろうし、面倒だからさっさとくっついてしまえば良いのにと、他人事のように思ってしまう。


それぞれに金を稼がなければならない理由があるとはいえ、ふたりは多分、好き同士なのに。



「あたしのことは気にしないで。」


と、投げやりな様子で返したら、



「そんなブサイクな顔で気にするなとか言われてもなぁ。」


「何かあったのかなって、あたしもレンも心配してたんですから。」


ふたりは口々に言って、ケーキの欠片を刺したフォークを向けてきた。


彼らなりの心配の仕方。


腹が立つ反面で、怒れない。



「ちょっとね、最近色々と考えることがあったから。」


すると美雪はぱあっと顔を明るくし、



「恋愛相談なら任せてくださいね!」


なんて、おどけたように語尾にハートマークいっぱいで言った。


だから何ですぐにそこに直結させるのかはわからないけれど。


あたしは口元を引き攣らせた笑みだけ返した。

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