潮騒
相変わらずの空模様の中で、対照的な向かいのふたりは、ケーキを頬張りながら先ほど観た映画の話で盛り上がっていた。


気を使ってくれているのか、それとも本当にあたしの心配は二の次なのか。


やっぱりよくわからない。


と、そんな中で鳴ったのは、美雪の携帯。


ディスプレイを確認した彼女は「あっ!」と声を上げ、焦った様子で立ち上がる。



「ちょっと向こうで電話してきますね。」


それだけ早口に言って、トイレの近くまで行ってしまった。


レンはその様子を、横目がちにうかがっている。


まぁ、ここからではその内容なんて聞こえるはずもないのだけれど。



「やっぱ気になる?」


あたしの言葉に彼は少しむすっとした様子で、



「そりゃあね。」


急に顔色を変えたような彼女のことは、さすがにあたしだって気にはなる。


レンはため息混じりに煙草を咥えた。



「美雪さぁ、ああやってたまにこそこそ誰かと電話してんだよ。」


「………」


「けど、安易には聞けねぇし、触れてほしくないっぽいからさ。」


彼はそう言って肩をすくめる。


きっとレンでさえ、まだ彼女の抱えるものを知らないのだろう。


美雪は未だ向こうで深刻そうな顔して電話を続けていた。


それを見守るレンの目は、少し寂しそうなもの。

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