潮騒
生返事だけを返してやると、そういえば、と思い出したように言った彼は、



「最近、北浜社長どうしたんすかね。」


ぎくり、とした。


殺されたとかならニュースになるだろうし、きっと大丈夫なのだとは思うけれど。



「しっかり繋いどかなきゃダメっすよ。」


「うるさいわね。」


「ほらぁ、すぐ怒るんだから。
ルカさんが愛想良くしてるのは、店で座ってる時だけっすね。」


本当に、余計なお世話だ。


睨みつけてやると、彼はそそくさと逃げるようにいなくなった。


別に心配してほしいとは言わないけれど、でも薄情なヤツだと心底思う。


あたしはろくに動かない体を押して着替えを済ませ、ふらふらと店を出た。


壁を伝うように歩きながら、扉を開け、階段を下りた時。


その時、店の前で待ち構えていた黒塗りの車に、あたしは目を見開いた。



「…何、で…」


何でこの男が、ここに?



「よう、マクラ嬢。」


忘れもしない、情報屋だと名乗るマサキ。


あたしは唇を噛み締めた。



「まだ何か用があるっての?」

< 17 / 409 >

この作品をシェア

pagetop